【問1】 次の事例のうち、民法の規定によれば、善良な管理者としての注意義務まで求められないものはどれか。
1 Aは、隣人Bが一週間ほど留守宅にしていることを知っていたので、B宅に届いた宅配品甲を、Bに無断で宅配業者から預かった。この場合におけるAの甲についての注意義務。
2 Aは、Aが修理したB所有の自動車甲の修理代金をBが支払わないので、支払がされるまで、甲の引渡しを拒絶した。この場合におけるAの甲についての注意義務。
3 Aは、友人B所有の自動車甲を無償で移転登録手続することを約し、Bから甲の引渡しを受けた。この場合におけるAの甲についての注意義務。
4 Aが、同居していたAの父Bが生前所有していた家屋甲にBの死亡後も継続居住しているが相続は放棄している。この場合における、相続人又は相続財産の清算人に引き渡すまでのAの甲についての注意義務。
(受任者の注意義務)
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(事務管理)
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。
(緊急事務管理)
第六百九十八条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
(管理者の通知義務)
第六百九十九条 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。
(管理者による事務管理の継続)
第七百条 管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。
(委任の規定の準用)
第七百一条 第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。
(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
(受任者の金銭の消費についての責任)
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
民法940条1項により、相続放棄をした者は、放棄時に現に占有している相続財産について、相続人または相続財産清算人に引き渡すまでの間、「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって保存すれば足りるとされています。これは善管注意義務よりも軽い注意義務です。
他の肢はいずれも善管注意義務が課されます。
肢1:無断で宅配品を預かった行為は事務管理(697条)にあたります。事務管理者は原則として善良な管理者の注意をもって事務管理を行う義務を負います。なお、本人の生命・身体・財産に対する急迫の危害を免れさせるための「緊急事務管理」(698条)であれば悪意・重過失がない限り責任を負いませんが、本事例はこれに該当しないため、原則どおり善管注意義務が求められます。
肢2:留置権者は、留置物について善良な管理者の注意をもって占有しなければなりません(298条1項)。修理代金債権を被担保債権とする留置権行使の場面であり、善管注意義務が課されます。
肢3:委任契約に基づく受任者の注意義務は、有償・無償を問わず善管注意義務です(644条)。無償委任であっても軽減されない点が重要です。
したがって、善管注意義務まで求められないのは肢4です。
なぜ善管注意義務が認められるのか(通説の根拠)
民法698条(緊急事務管理)の反対解釈が主な根拠です。
698条は「管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
」と定めています。
緊急の場合だけ「悪意・重過失がない限り免責」と特別に規定している。
ということは、緊急でない通常の事務管理の場合は、軽過失でも責任を負う(=免責されない)と読むのが反対解釈。
「軽過失でも責任を負う」という注意義務の程度は、民法上「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」に相当します。 (自己の財産と同一の注意=個人的主観的過失で足りる、という軽い義務ではなく、一般的客観的な注意を要求する義務)
さらに、
事務管理は「他人の事務を管理する」点で委任(受任者)と類似していること
委任では644条で明文で善管注意義務が課されていること
からも、類推・類比して善管注意義務が認められる、というのが伝統的な通説・実務の理解です。
補足
民法701条は委任の規定のうち645条〜647条を準用していますが、644条(善管注意義務)自体は準用されていません。 そのため「条文上は自己の財産と同一の注意で足りるのではないか」という批判も一部ありますが、現在の通説・試験・実務では「698条の反対解釈により善管注意義務」とされています。
まとめると:
条文に直接書いていないのは事実
しかし698条の特別規定(緊急の場合だけ軽過失免責)から、通常の場合は善管注意義務が課される、と解釈されている
これが「事務管理には善管注意義務がある」とされる理由です。

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